弁護士インタビュー
NO&Tで培った様々な経験を活かして、大規模M&Aをリードする
浅妻 敬
取り扱っている業務分野について教えてください。
企業や事業の買収、売却、統合、提携などの、いわゆるM&Aの分野を主に取り扱っています。
その中でも、プライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)を依頼者とする仕事を多く取り扱っています。PEファンドとは、投資家から資金を集めて、友好的なM&Aを通じて非上場企業への投資を行い、当該企業の経営に深く関与して企業価値を高めた後に、当該企業の上場や売却などを通じて投資を回収し、投資家にリターンを分配するファンドです。PEファンドによる買収は、買収資金の一部を外部からの借入れで賄うことによって少ない資金で多くのリターンの獲得を目指すLBO(レバレッジド・バイアウト)という手法を使うのが一般的ですし、それ以外にも、投資家のリターンを最大化するために様々な工夫を凝らしますので、複雑な取引となることが多いです。上場企業の経営者自身が当該企業を買収するMBO(マネジメント・バイアウト)については、実際にはPEファンドが資金の出し手として資本参加している場合が多いです。PEファンドは、もともと欧米で発展してきた仕組みでしたが、2000年代から日本でもM&Aにおける主要なプレイヤーとして認識されて、最近は大型M&Aの買い手として名を連ねることも多く、年々存在感を高めています。
PEファンド以外にも、事業会社から金融機関に至るまで、様々な依頼者のM&A案件をサポートさせていただいています。現在担当している主なものを紹介すると、金融機関の統合案件、事業会社の事業の一部を切り出して同業他社に売却する案件、上場企業の非公開化を伴う買収案件、事業再生型のM&A案件、同業他社との合弁プロジェクト、企業組織再編案件、入札方式での子会社売却案件、世界規模の大型買収案件の日本部分のサポートなどですが、買収防衛に関するご相談や、国内企業を代理して海外の企業を買収するアウトバウンド案件を担当することもあります。
M&Aに関する弁護士の仕事は、具体的にどのようなものでしょうか。
個々の案件によって依頼される内容は異なりますが、一般的には、初期的な検討段階から取引の実行に至るまでのM&Aのプロセス全体にわたって、法的な観点から依頼者をサポートすることが、私たち弁護士に求められます。
M&Aの検討段階では、相手方との情報交換の進め方、相手方に対する提案の仕方、取引スキームなどについて、依頼者にアドバイスします。また、特に買収当事者側で関与する場合には、対象会社や対象事業に関する問題点などについて、デュー・デリジェンスと呼ばれる詳細な調査を行い、対応策などについてアドバイスすることが一般的です。
そして、M&Aにおける弁護士の中心的な仕事は、契約交渉に関するサポートです。M&Aは、関係当事者に相当に大きな影響を与えることから、M&Aに関する条件交渉は詳細で複雑なものにならざるを得ません。重要な条件について双方が妥協点を見出せない場合には、契約交渉中に破談に至ってしまうこともあります。そのため、M&Aに関する契約交渉では、私たち弁護士が法的な観点から依頼者をしっかりとサポートすることがとても重要です。
また、最終契約の締結後も、多数の関連契約の作成、協議、交渉を行い、許認可関連手続、労働者関連手続など多くの法令上・契約上の手続を履践する必要がありますので、私たち弁護士が依頼者をリードして、M&Aの完了まで全面的にサポートすることが期待されています。
M&Aは、チームで取り組むことが多いと聞きますが、何名くらいの弁護士で取り組むのでしょうか。
これもまた個々の案件によって異なりますが、一般的には、数名から10数名のチームで取り組みます。チーム構成は、1~2名のパートナーと数名のアソシエイトというものが多いですが、小規模なM&Aの場合、基本的にパートナー1名とアソシエイト1名で対応しつつ、必要に応じて他の弁護士の助力を得るような体制で取り組むこともあります。
他方、大規模なM&Aになると、数十名でチームを組んで対応することもあります。例えば、現在担当しているPEファンド案件のうちの1つは、外資系のPEファンドが、外部から多額の資金を調達した上で、日本の上場企業グループから事業の一部を買収するもので、取引金額も大きく、また、対象事業が多数の国において展開されていることから、相当に大規模で複雑なM&Aとなっています。このM&Aには、海外オフィスのメンバーも含めて、40名近くの弁護士で対応しています。
入所時から一貫して、M&Aの分野を専門的に取り扱ってこられたのでしょうか。
入所後数年間は、私自身の希望もあって、訴訟・紛争のほか、ファイナンス取引、ライセンス取引や、知的財産権法、独占禁止法、労働法に関する助言など、いろいろな案件に関与させていただき、M&A案件は、あくまでもそのうちの1つでした。M&A案件を主な取扱分野にしようと考えたのは、入所して3年半ほど経った頃だったと思います。海外留学・研修を経て帰国した後は、M&Aに関わる税務上の助言についても関与させていただきました。パートナー就任後はM&A案件に特化していますが、それまでの間、先輩弁護士から模範を示してもらいながら多種多様な案件に取り組む中で、徐々に自分のスタイルを築いてきたように思います。
当事務所には、専門性の高い業務分野を取り扱う弁護士がとても多いですが、私のように、いろいろな分野を経験しながら専門性を高めていった弁護士は少なくありません。大きな組織でありながら、このように柔軟な対応が可能なのは、人材育成を一人一人のアソシエイトの観点から考える文化がしっかりと根付いているからで、当事務所の貴重な財産であると感じています。
M&A以外の分野の経験は、M&A案件に取り組む上で、どのように活かされていますか。
例えば、M&Aの実施の是非や具体的な条件などに関連して、何らかのリスクへの対応策について助言を行う際に、訴訟・紛争案件に関する経験が活かされているように思います。特に、「実際に法廷等において争われることになった場合にどのような主張や立証が考えられるだろうか」といった観点は、M&Aに関するリスクの程度を具体的に分析・検討する上で、とても重要だと感じています。
そのようなリスクや法的問題点を発見する局面でも、M&A以外の分野に関する経験が活きていると感じます。対象会社や対象事業に関するリスクや法的問題点を発見するためには、このような企業活動に関する法分野に関する広い範囲の知識・経験が必要となります。その後の詳細な分析・検討については、関連する分野を主として取り扱うパートナーに担当してもらうことが多いですが、M&Aでは、大局観をもって迅速な判断を下していくべき場面が少なくありませんので、広い視野を持ったM&A分野の弁護士が初期的な問題点の把握を素早く行えることは、とても重要だと感じています。
また、M&Aを取り扱う弁護士は、外部アドバイザーや他の分野の弁護士と連携しながら対応することが多いのですが、その際にもM&A以外の分野に関する経験が有益だと思います。例えば、税務やファイナンス取引に関する経験は、M&Aの取引スキームを検討する際に役立っていると思います。
M&Aを取り扱う弁護士になるために、入所前に特に力を入れて学んでおいた方が良いものがあれば、教えてください。
特別なものはないと思います。司法研修所での修習を終えた後、当事務所で弁護士としての経験を積んでいただければ、自ずと必要な知識・経験は身につくと思います。
M&Aに役立つ知識はたくさんありますし、英語力は今後も重要性を増していくと思いますので、余力のある人であれば、特に英語について入所前から意識して取り組んでいただくのも悪くないと思いますが、あくまでも弁護士としてM&Aに関わる以上、大切なのは事実認定、法の解釈・適用、文書作成などの法的な能力だと思いますので、司法試験に合格した後は、特別な勉強を開始するよりも、司法研修所で基礎的な能力をしっかりと鍛えることの方が重要だと思います。当事務所では、数十年もの長い期間にわたる試行錯誤を通じて設計された合理的な教育体制が整っていますし、当事務所の良い伝統として、ベテランのパートナーからアソシエイトに至るまで、若手の育成にとても熱心ですので、司法研修所でしっかりと修習してきた人であれば、入所後に日々の実務に携わる中で、自然とM&Aに必要な知識・経験を身につけることができると思います。
これから弁護士を目指す方に向けて、最後にひと言お願いします。
経済活動の発展に伴って、既存の枠組みでは対応できない新しい種類の問題は今後も発生し続けると思いますし、その中で、弁護士の活躍が期待される領域は今後もますます拡大するだろうと思います。そして、当事務所は、企業法務を取り扱う法律事務所の中でも、特に、難易度の高い複雑な案件やこれまで誰も検討したことのないような新しい法的問題に関する依頼を受けることの多い法律事務所であると自負しております。当事務所が長い期間にわたって依頼者の皆様から信頼され続けてきたからこそ、このような重要案件を任せていただけているのだろうと思います。
私たちは、最高の質のサービスを依頼者の皆様に提供し続けることによって、今後も依頼者の皆様から重要案件を任せていただけるような存在であり続けたいと願っています。そして、そのために、今後も引き続き、弁護士間の良好な協力関係の維持・発展と人材の育成に尽力したいと考えています。私たちと同じ志を持つ人に、是非仲間に加わっていただきたいと思います。
プロフィール
浅妻 敬
1997年4月入所。主な業務分野は、M&A、企業組織再編、子会社・事業部門の売却、合弁、戦略的提携、レバレッジド・バイアウト、プライベート・エクイティ投資、事業再生、資本再構成などの複雑な企業間取引。
プロフィール詳細学歴/職歴
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1995
東京大学法学部卒業
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1997
長島・大野法律事務所(現 長島・大野・常松法律事務所)入所
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2002
The University of Chicago Law School卒業(LL.M.)
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2002~2003
Kirkland & Ellis LLP(Chicago)勤務
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2005~
長島・大野・常松法律事務所パートナー