育成グループ座談会

目指すは大規模事務所であることの強みときめ細やかな教育体制の両立

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対談者

  • 黒田 裕

    2001年登録:パートナー
    主な業務分野は、M&A/企業再編、コーポレートガバナンス、事業再生・倒産、海外進出支援。
  • 萩原 智治

    2017年登録:アソシエイト
    主な業務分野は、薬事・ヘルスケア、個人情報保護、不動産取引。個人情報保護分野で専門登録。
  • 大塚 理央

    2019年登録:アソシエイト
    主な業務分野は、国際仲裁、海外進出支援、インフラ、一般企業法務。
  • 室 憲之介

    2020年登録:アソシエイト
    主な業務分野は、再生可能エネルギー、国際仲裁、ファイナンス、一般企業法務。
  • 渡邉 啓久

    2010年登録:パートナー
    主な業務分野は、不動産取引、ストラクチャード/プロジェクトファイナンス、インフラ、資源・エネルギー。
渡邉

今日は、私と同じ育成グループに所属している弁護士を中心に集まってもらいましたので、NO&Tの育成グループ制度(※)の実際というテーマで、お話ししていきましょう。

入所から1年間の仮配属となる育成グループは、どのように決まるのでしょうか。

渡邉

学生の皆さんは、NO&Tに入所した後、自分の希望通りの育成グループに仮配属されるのか、きっと気になっているんじゃないかと思います。NO&Tでは、入所から1年間は育成グループのいずれかに仮配属となり、2年目になるタイミングで本配属先が決まるのですが、ほとんどの方は仮配属先がそのまま本配属先となります。NO&Tに入所した後、仮配属先が決定される前に、入所したての弁護士は自分の希望を出せるのですが、当時のことを振り返って、実際のところ、皆さんどうでしたか。

大塚

私は、特定の育成グループを希望していたわけではありませんが、結果的に、興味がある分野と伝えていた国際紛争やインフラの分野を取り扱っているグループに仮配属になりました。ただ、各育成グループには大まかな分野の色はあるものの、ある分野だけを取り扱っているということはありませんので、どのグループでも、幅広く希望の分野の仕事ができると思います。実際、私のグループでは、ファイナンスや不動産取引、倒産、インフラ、国際紛争を主に取り扱っていますが、M&Aやコーポレート、訴訟等の仕事もあり、幅広い分野に携わる機会があると日々感じています。

渡邉

育成グループ=プラクティスグループと誤解されることがありますが、育成グループ制度はあくまで若手教育の一環としての制度ですので、一つの育成グループに多種多様な業務を担っている弁護士がいるというのは、当然といえば当然なんですよね。室さんはどうでしたか。

私は、「外国語を使う仕事をやってみたい」という希望を出しました。現に、外国語を使う案件が過半を占めているので、希望は叶っています。

黒田

「事業再生をやりたい!」といって強い希望をもって、事業再生を多く取り扱うグループに仮配属されるようなケースもありますよね。また、大塚さんがおっしゃったように、各グループにはそもそも様々な案件がありますし、他のグループと協働する案件もたくさんありますので、アソシエイトの希望があれば、グループのパートナーが配慮してそういう希望分野の案件をアサインしているように思います。他のグループと仕事をすることに関連した制度としては、プラクティスグループ制度や専門登録制度もありますが、こちらは後ほど話しましょう。また、アソシエイトの希望がそのときどきで変わることもしばしばあります(笑)。将来、ある分野の専門性を高めていくとしても、若いときには多様な案件を経験し、幅を広げていくことは非常に重要なので、育成グループ制度はそのために適した制度だと思います。

渡邉

私も、育成グループ制度があるからこそ、アソシエイトは多様な案件に関与できるのだと思っています。

事務所に入所する前に、自分が中心的に取り組みたい分野を決める必要はあるのでしょうか。

渡邉

よく学生の方から、「入所前に自分が中心的に取り組みたい希望分野は決めないといけないのですか?」と質問されることがあります。萩原さんは希望分野はあったのですか?

萩原

入所前に確固たる希望分野があるわけではありませんでしたね。採用活動の際に会った先輩弁護士の話を聞いて、漠然とファイナンス分野や薬事ヘルスケア分野が面白そうだなと思ってはいましたが、本当にそれが自分に向いているのか、実際にやってみないことには分からないと思っていましたし、この分野でなければ、という強い思いまではなかったです。仮配属に関する希望を出すときも、「分野はともかく、私に向いていそうな育成グループに配属して欲しい!」と伝えたくらいでした。縁があって薬事ヘルスケアを含む幅広い業務分野を担当することになり、そのことに非常に満足していますが、これから先もそれをずっとやり続けるかは決めていません。いずれにしても、入所前に悩みすぎる必要は全然ないですね。

渡邉

室さんはいかがでしたか?

私は大学の授業などで聞きかじった国際仲裁を一度やってみたいという気持ちがありました。入所後はいくつかの国際仲裁案件に携わりながら、先輩に色々と教えてもらっていましたが、“専門”という感覚はなかったですし、まだ自分が取り組む業務の幅を絞るのは早すぎるかなと思っていました。周りの同期をみても、8割以上の人は、入所時から「専門としてこれをやっていこう」とは決めていなかった気がします。

渡邉

大塚さんも国際仲裁の分野に力を入れていますが、きっかけは何かあったのですか?

大塚

私は、大学の授業で国際仲裁という分野を知り、海外の弁護士と対話を重ねて共に仕事をしていくことに興味を持ったため、国際仲裁に関わりたいと思うようになりました。また、従前から興味のあったインフラの海外輸出という分野が国際仲裁と親和性があることも、国際仲裁に関わることとなった理由です。現在は国際仲裁の仕事を多く取り扱っている一方、インフラやコーポレート、ファイナンスなどの分野にも興味があり、様々な分野の仕事を経験して多様な視点を持てるよう、意識して仕事に取り組んでいます。

渡邉

もちろん、自分にはこれだ!という確固たる意思をもって入所してきてくれる人もいますが、いざ入所して多種多様な業務を見ていると、それが揺らぐことはよくありますし、なにも1つ、2つの分野だけをやっていくんだ、というように幅を絞る必要なんてないと思うんです。私も、特に入所して1、2年目の頃は、思いつく限りのあらゆる法分野の業務に携わっていました。留学前は、不動産取引、ファイナンス、訴訟・仲裁、M&A・ジョイントベンチャー取引が、大体1/4ずつといったイメージです。依頼者からは、ジェネラルコーポレートとしてのご相談の中で、知財や独禁に関する質問を受けたり、危機対応に関わることもありました。また、乗り物が好きだったので、飛行機、電車、船舶、車が関係する仕事は、なんでも手を挙げていましたね。それでも飽き足らず、米国のロースクールへの留学、英国法律事務所への出向中は、資源・インフラ・再エネ分野を中心に勉強し、留学・出向から事務所に復帰した後に、なんとなく今の自分のプラクティスに落ち着いたという感じです。

黒田

案件は巡り合わせのような面もあるし、いざ実際にやってみて、合う・合わない、興味が持てる・持てない、ということもあります。また、我々弁護士は世の中のニーズに応えていかなければなりませんが、世の中の動きはとても速いので、新しい法分野も次から次へと出てきます。これから40年以上続く弁護士人生のはじめに、自分の業務の幅の広狭を決める必要はないと思います。ちなみに、私は、もう20年前になってしまいますが、弁護士登録の当初はIT(今でいうテック系)に関する仕事がしたかったのですが、興味にぴったり合った案件に巡り合わず、また、資産流動化等のファイナンス案件やその他様々な分野の仕事を経験しましたが、結局、自分の性分に合っていたM&Aの案件を中心に取り扱うようになりました。ただ、他の分野の経験も今の業務に役に立っていると感じます。

育成グループ制度について、入所前や入所直後に、不安に思っていたことはありますか。

渡邉

皆さんが学生だった頃、あるいは、事務所に入所してすぐの頃、育成グループ制度について何か不安に思っていたことはありますか。

私は、入所前はとても不安で、「ファイナンス事業部」のようなところに配属されて、そこの仕事をひたすら処理するものなのかなと想像していました。実際に入所してみると、初日から色々な形で様々な分野の仕事をアサインしてもらえたので安心したことをよく覚えています。黒田さんとは、仮配属直後の飲み会の場で話をしたのがきっかけでコーポレートの仕事でご一緒しましたよね。そもそもNO&Tのグループは「育成グループ制度」の略なので、プラクティスグループとは全く異なるのですが、業務分野でかっちり区切られているのかなと何となく思い込んでいました。実際には、私の同室パートナーであった渡邉さんは主に不動産取引、エネルギー・インフラ、バンキングを取り扱っていますし、同じ育成グループでも、大塚さんのような国際仲裁や消費安全に強い弁護士や、黒田さんのようなM&Aコーポレートを業務の中心とする弁護士もいます。そうした人たちと雑談をしている中で、自分もこういうことをやってみたいと自然と思うものですよね(笑)。4年程度に一度行われる育成グループの再編の時に、次はどんな人達と席が近くなるのか楽しみにしています。

育成グループ以外の人と仕事する機会は、どのくらいあるのでしょうか。

渡邉

育成グループの垣根を越えて、別の育成グループの弁護士と仕事をする機会は、皆さんどの程度もっていますか。

萩原

別の育成グループの弁護士とも、日常的に仕事をしています。よくあるパターンは、同じグループのパートナーが担当している案件に、別のグループのパートナー、カウンセル、アソシエイトが参加している場合です。私がよく取り扱っている分野で言うと、ヘルスケア関係のM&A案件や紛争案件、大規模な不動産案件の場合は、育成グループをまたいだチーム構成になることが多いです。もう一つのパターンは、専門登録制度を活用したり、プラクティスグループに参加するというものです。私は個人情報保護関係で専門登録をしていますので、他の育成グループのパートナーから、個人情報保護関係の案件に誘ってもらうこともよくあります。

渡邉

実際、萩原さんと私は別の育成グループですが、長らく不動産案件で一緒に仕事をしていますよね。

大塚

国際仲裁の分野でも、紛争の対象となっている特定の分野に強みを持つ弁護士と紛争解決業務自体に強みを持つ弁護士が集まって一つのチームを作ることがあります。インフラ整備に関する紛争であれば、インフラに強い弁護士と紛争解決に強い弁護士が集まって一つのチームを作ることとなります。私はインフラ寄りですが、国際仲裁の案件では、紛争解決分野に強い先輩方と協働することが多く、そのノウハウを日々教えてもらっています。

黒田

依頼者に最高のリーガルサービスを提供するために、案件に応じたベストのチーム構成をまず考えますので、結果として、別グループのパートナーと協働する機会は多いです。例えば、保険会社のM&Aでは、保険業法を専門として取り扱う別グループのパートナーにチームに入ってもらい、私の所属するチームと協働したり、あるいは、労働法が関係する案件で、別グループの労働法のパートナーに入ってもらい、私の所属するグループのアソシエイトが労働法パートナーに指導を受ける、といった形もあります。また、逆に、私が別グループのパートナーの案件に入って、別グループのアソシエイトと協働することもあります。なので、別グループの人と仕事をすることはよくあります。

同期、先輩、後輩の関係やスタッフとの関係や交流はどうでしょうか。育成グループ単位の懇親の機会もあるのでしょうか。

渡邉

仕事以外の場面で、育成グループ内外の弁護士やスタッフとの懇親の機会は、どういった具合なのでしょうか。

萩原

育成グループでは定期的に週例会を開催して各弁護士の業務状況を共有しあっています。懇親会的なイベントとしては、歓送迎会や忘年会はもちろんのこと、僕のいるグループはボジョレーヌーボーの解禁を祝う会や、ハロウィーンの集いなど季節毎のイベントもやっており、人間関係を深める機会はとても多いように思います。同じ育成グループの弁護士・スタッフは席も近いので、雑談をする機会はいくらでもあります。

渡邊

私は別のグループに所属していますが、昔からそういう楽しそうな集いには何人かと一緒に混ぜてもらっています(笑)。そういった機会に、普段仕事であまり接しない人と仲良くなって、それがきっかけで仕事をするようになる、ということもあるんですよね。

大塚

年次が近い弁護士とは同じ部屋になることもあり、ちょっとした仕事の相談だけでなく、息抜きに色々と雑談ができるので、良い気分転換になります。また、期が離れた先輩とも部屋が近く、気軽に尋ねられるような配置になっていますので、仕事の合間に他愛もない話をしに行ったり、仕事終わりに食事に連れて行ってもらうことも多いです。業務・業務外問わず日頃から交流が盛んなので、仕事で迷うことがあるときに気兼ねなく相談できる相手も多く、とても助かっています。

専門登録へ参加したきっかけを教えてください。

渡邉

事務所では、プラクティスグループ制度や専門登録制度を設けており、アソシエイトが積極的に取り組みたいと考えている分野への挑戦を後押ししていますが、萩原さんは個人情報保護分野で専門登録をしていますよね。どういったきっかけがあったのでしょうか。

萩原

私の場合は、もともと育成グループ内の案件でヘルスケア関係のデータの利活用に関するものを担当したことがきっかけです。近年では医療ビッグデータに関する法律が制定されたことをはじめとして、ヘルスケア領域のデータ利活用に関する動きが活発です。勉強を進める中で、ヘルスケア領域に限らずデータの利活用一般に関する興味が湧いてきましたので、その分野に強みを持つ他の育成グループのパートナーと仕事をしたいと考えて、専門登録を行いました。

渡邉

なるほど、萩原さんはデータプロテクション分野の若手弁護士としてバリバリ活躍されているというイメージでしたが、そういうきっかけだったのですね。専門登録とは別に、事務所では、アジア、タックス、知的財産、競争法といった特定の分野を専門に扱うプラクティスグループもあり、それらのプラクティスグループに所属している若手弁護士もたくさんいます。

育成グループ制度の意義はどこにあると感じていますか?

渡邉

最後に、NO&Tが育成グループ制度を採用する意義として、皆さんの視点からどのように感じていますか。

大塚

NO&Tには、育成グループ制度の下で、パートナーが育成グループに所属する若手アソシエイトの面倒をしっかり見る土壌があると思っています。若手アソシエイト一人ひとりのことを育成グループのパートナーがしっかりと責任をもって見てくれるというのが、育成グループ制度の一番のメリットだと思います。また、4年程度に一度行われる育成グループの再編をきっかけに全く新しい分野にチャレンジしてより仕事の幅を広げることができるのも魅力だと思います。

萩原

大規模事務所であることの強みと、きめ細やかな教育体制の両立は必ずしも容易でないと思いますが、育成グループ制度はこれら両方を実現するための最適解の一つだろうと思います。日頃は、お互いのことをよく知ってコミュニケーションをとることができる現実的な規模のまとまりとしての育成グループで過ごしつつも、自分の興味関心に応じて他の育成グループの弁護士とも協働することができます。また、大塚さんが言うように、育成グループのメンバーは定期的にシャッフルされますので、育成グループという単位が重みを持ちすぎるわけでもなく、本当によく考えられた制度だなと感じます。

黒田

NO&Tは弁護士数だけで500人規模の大事務所なので、率直なところ、顔と名前の一致しない人もいると思います。ただ、少なくとも育成グループ内は弁護士も秘書も全員わかりますし、仕事やらイベントなども一緒に行うので、仲間意識も醸成されます。育成グループの規模もちょうどいいですよね。大きすぎると放置されてしまう若手が出てくるかもしれないし、小さすぎると万が一人間関係で行き詰まったときに逃げ場がない・・・(笑)。パートナーが複数いて、様々な案件があるだけでなく、期が近く相談しやすい先輩アソシエイトもいますので、新人弁護士がキャリアをスタートする環境としてはものすごく恵まれているのではないかと思います。

渡邉

育成グループは、入所してから4-5年程度の帰属先でしかないですが、弁護士人生を歩み出す一番初めの成長期に、30名程度の弁護士で一つの育成グループというちょうどよい規模感の中で、互いのことをよく知りながら余計なストレスを感じることなく仕事に集中できる環境に置かれるというのは、若手の育成にとってベストだと思っています。育成グループから離れると無所属となりますが、それでも、自分の執務室は自分が育った育成グループの中に置かれることが多いので、寂しさを感じることもありません。留学から帰国した弁護士も無所属として事務所に復帰するため、アットホームな雰囲気の中で仕事に戻ることができるのもいいシステムだなと思います。

渡邉

さて、今日は育成グループ制度について皆さんに語って頂きました。つい、議論が白熱してしまいましたが、きっと育成グループって実際のところどうなの?という疑問に、少し答えることができたのではと思います!皆さん、どうもありがとうございました。