弁護士インタビュー
専門性とジェネラリストとしての知識・経験の両立を目指す
辺 誠祐
どのような案件を中心に取り扱っているのですか。
一番の業務の中心は、いわゆる危機管理・企業不祥事対応・コンプライアンスです。
危機管理・企業不祥事対応といっても、イメージが掴みにくいかもしれませんが、企業不祥事に直面したクライアントたる企業に対して、事実関係の調査、問題の法的分析、再発防止策の検討、当局やマスコミ対応に関するアドバイス等を提供しています。当事務所は、危機管理分野においては特に数多くの実績を有しており、私自身、一年目からいきなり新聞を賑わす重大案件を担当するなどし、これまでに数多くの企業不祥事の解決に関与してきました。
また、企業の内部統制の評価、社内マニュアルの策定等、企業不祥事の発生を未然に防止するための企業の体制づくりにアドバイスすることも少なくありません。企業不祥事の対応にあたると、人事ローテーションの不足等、不祥事が発生しやすい原因を数多く把握することができますが、そういった経験を、企業の平時のコンプライアンスづくりに活用することにより、価値あるアドバイスができているのではないかと感じています。
危機管理・企業不祥事対応・コンプライアンス業務のやりがいを教えてください。
危機管理案件はマスコミ等で大きく騒がれることが多いですが、そういった社会問題の最前線で、真相を究明したり、企業が行う選択に関与したりすることは、通常では得がたい経験であり、危機管理案件の大きなやりがいだと思います。
また、元検察官だったパートナーは、「危機管理案件は検察官の業務と似ているところがある。」などとよく言っていますが、危機管理案件においては、様々な業界の生身の人間の話を聞き、問題を起こしてしまった人の動機や、問題行為に至らせてしまった組織の実態等に迫ることが求められます。東京の大規模事務所の仕事といえば、デスクワークが中心と思われがちですが、危機管理案件は、その点、大きく異なりますので、そういった人との関わり合いが好きな方には、特に危機管理業務をお勧めできると思います。
あともう一つ述べておきたいこととして、我々は数多くの企業不祥事を経験していますが、クライアントの担当者の方からすれば、企業不祥事は、一生に一度経験するかしないかというレベルの非常に重大な問題であるという点です。ですので、危機管理・企業不祥事対応に関しては、他の業務分野と比べて、弁護士が頼られる場面も多いのではないかと思います。このことは、同時に、我々の責任が非常に重いことを意味するわけですが、我々も、それに応えるため、一切妥協することなく業務に臨んでいます。ときには、記者会見のシナリオや公表用のプレスリリースの内容について、深夜遅くまで、クライアントと議論を交わすこともあり、会議後には、本当にヘトヘトになりますが、そういった検討を終えて、企業が不祥事を乗り越え、担当者の方からお礼を述べられたときなどは、何ともいえない達成感を味わうことができます。
危機管理・企業不祥事対応・コンプライアンス業務というとお忙しそうな印象を受けますが、それに携わるアソシエイトは、その他の業務分野にも携わることは可能でしょうか。
もちろん可能です。育成グループ制度のもとでは、所属する育成グループに、取扱分野の異なるパートナーが複数所属していますので、そういったパートナーと仕事をする中で、多様な案件を経験することが可能です。私自身、危機管理案件を業務の主軸としてきましたが、労働法、訴訟・紛争解決等に関しては、今でも数多くの案件を担当しており、同じ育成グループのアソシエイトと共に対応にあたっています。また、アソシエイトの頃は、それら以外にも、上場会社の組織再編案件、ベンチャーキャピタルによる出資案件、J-REITの公募増資案件等、分野を問わず様々な案件に関与していました。
パートナーになった今振り返ってみると、アソシエイトの頃に、こういった幅広い業務分野の案件を経験できたことは、弁護士としての自分の財産になっていると実感しています。というのも、危機管理案件を取り扱う中で、こういった幅広い過去の経験が活用できていると思える場面がしばしばあるからです。例えば、ファイナンス分野を取り扱っていたジュニア・アソシエイトの頃は、毎晩、金融商品取引法の条文と格闘していましたが、その頃に培えたある種の土地勘のようなものは、インサイダー取引規制対応等、金融商品取引法関連のコンプライアンス問題を考える際に、非常に役に立っています。そして、そういった幅広いジェネラリストとしての知識・経験を背景に、クライアントに有意義なアドバイスを提供できていると日々感じています。ですので、私自身は、一緒に仕事をするアソシエイトに対しても、特に留学前は、分野を絞ることなく幅広い案件に携わってほしいと感じており、案件の割り振りを考える際も、特定のアソシエイトの業務分野が偏ってしまっていないかを常に考えるようにしています。
事務所の教育体制については、どのように感じていますか。
当事務所の教育体制の特徴としては、育成グループ制度が指摘されることが多いですが、個人的には、パートナーと1年目の弁護士が執務室をシェアするという同室パートナー制度も、当事務所の教育体制の大きなメリットだと思っています。事務所に入所したばかりのときは、クライアントとの関わり方や案件への向き合い方など、分からないことばかりですが、同室のパートナーの仕事ぶりを毎日間近で見ることで、弁護士として備えるべき基本的な姿勢を学ぶことができます。また、同室パートナー制度の期間中は、同室パートナーと仕事をすることが多くなりますので、割り振りも、アソシエイトの興味分野に沿ったものになることが多いです。
私が入所したときは、最初の半年が危機管理を専門とするパートナーと、残りの半年が金融レギュレーションを専門とするパートナーと同室でしたが、入所1年目に、この2人のパートナーの仕事を数多く経験できたことは、コンプライアンスに関する業務に携わりたいと考えていた私にとって、非常にありがたかったです。今はパートナーとして同室アソシエイトを受け入れる立場になりましたが、コンプライアンス分野に興味を持ってくれている1年目の弁護士と一緒に案件を担当することは、とても嬉しいですし、同室アソシエイトが、私以外の弁護士やクライアント等とコミュニケーションをとっている様子を間近で確認できるので、教育効果の高さを改めて感じています。
また、同室パートナー制度が終了する2年目以降も、同室パートナーとの関係性は継続し、プライベートや自分のキャリア等の相談をすることも多くあります。私自身、パートナーとなった今でも、当時の同室パートナーには様々なことを相談したり、気楽に食事に行ったりと、よい関係が続いています。こういった信頼できる人間関係を入所1年目に構築できることも、同室パートナー制度の有意義な点だと思います。
海外留学・研修も経験されていると思いますが、その頃の生活について教えてください。
私の場合、2016年の夏からアメリカに計2年間留学・研修することになりました。
まず、最初の1年間は、North Carolina州のダーラムにあるデューク大学のLL.M.プログラムに参加しました。ダーラムといっても、多くの方は「どこ?」と思われるかもしれませんが、アメリカ東海岸のワシントンD.C.の南に位置する小さな田舎町です。ロースクールでは、米国の企業犯罪、民事訴訟、コーポレートガバナンス等、日本での私の業務に役立つ科目を多く履修しました。留学前にも、米国関連の案件において、ディスカバリーといったアメリカの法制度に関わる機会はあり興味は持っていたのですが、通常業務が忙しい中で外国の法制度を一から体系的に学ぶことは難しいと言わざるを得ません。ですので、そういった米国の法制度について、本場のロースクールで、著名な教授陣の下、しっかり時間をとって体系的に学び知識を深められたことは、留学の大きな成果の一つになったと思います。また、同じプログラムに参加する世界各国からのLL.M.生や、現地の三年制のコースに参加するJ.D.生との親交を深められた点も、留学の大きな成果の一つだと思います。私が参加したLL.M.プログラムには、全世界41か国から95名が参加していましたが、丁度よい規模感で、文字どおり全員と親交を深めることができました。授業や飲み会等、親交を深める機会は数多く用意されていますが、特に、デューク大学は、アメリカの大学バスケットボールの強豪校で、バスケットボール関連のイベントが多いです。彼・彼女らと一緒に、バスケットボールの試合のチケットを求めて2晩徹夜したり、声を枯らしてバスケットボールの応援をしたことは、本当に良い思い出になっています。
デューク大学卒業後は、New York州の司法試験を受験後、同州のマンハッタンにあるDechertという法律事務所で、Visiting Attorneyという役職で約1年間研修しました。研修では、デューク大学で得た米国法の知識を前提に、米国における企業犯罪や訴訟といった実際の案件に、弁護士として関与しており、とにかく刺激的で興味深い毎日を過ごすことができました。例えば、そう経験できることではないと思いますが、米国司法省職員(連邦犯罪についての訴追権限を有する機関であり、日本の検察官のようなものです。)による参考人取調べに立ち会う機会がありましたが、米国の弁護士が、そういった局面でクライアントの利益を守るため、どのように司法省職員と対峙しているのかという米国企業犯罪実務の最前線を垣間見ることができました。また、米国企業の不祥事調査に関与することもありますが、日本と米国では、様々な面でルールや取扱いが異なりますので、米国の弁護士とそういった違いについて議論を交わすことは、日本の制度を改めて考える機会になり、とても勉強になります。日本企業に対する米国司法省による取締りは近年厳しくなってきていますが、研修中の経験は、そういったリスクに直面した日本企業に今後アドバイスする際に、とても有益なものになったと感じています。
実際に留学・研修するまでは、2年という短い期間ではコストに見合った意義がないのではないかと考えたこともありましたが、米国の法制度・実務を体系的に学べたこと、英語力を向上できたこと、法的バックグラウンドを持つ友人が各国にできたこと等、少し考えただけでも、今後弁護士として成長する上での大きな財産を得ることができたように思います。事務所からの留学費用の補助もありますし、個人的には、留学・研修を、有力なキャリアプランの一つとしてお薦めしたいと思います。
留学のための準備はどのようなものでしたか。
私が留学のために英語の勉強や出願資料の作成等をしていた頃は、当事務所はとても忙しい状況でした。私自身も、大きな企業不祥事案件や複雑な争訟案件に連続して関与しており、その隙間で行う留学準備作業は、本当に苦痛でした。ですので、実際のところ、私自身は、留学のタイミングを遅らせようと考えており、事務所に対しても、その可能性を伝えていました。もっとも、それを聞いたからだと思いますが、よく一緒に仕事をする多くの先輩弁護士が、留学準備のために私が時間を割けるよう、仕事量や内容等を調整してくれました。また、あるパートナーは、食事に誘ってくれ、その場で、「キャリアを考える上で留学・研修は早く行った方が絶対によい」、「準備が辛くても、このタイミングで行くべき」などと、熱く語ってくれました。同室だったパートナーには、直前まで留学に行けるかどうか分からなかったこともあり、とてもタイトな期間で推薦状の作成をお願いすることになったのですが、状況を理解してくれ、快く対応してくれました。あと、当時私の担当だったセクレタリーは、何なら私よりも入念に各ロースクールのウェブサイトを読み込み、提出書類や期限を正確に把握してくれた上で、書類の送付等の作業を責任もって担ってくれました。
今振り返ると、こうしたバックアップがなければ、2016年に留学を実現することは不可能だったと思います。事務所が忙しく人手が欲しい状況だったにもかかわらず、多くの弁護士・スタッフが留学を推奨してくれたことには、本当に感謝していますし、それに支えられた私自身も、今後留学を検討する弁護士には、留学準備のための時間をできるだけ確保してほしいと考えています。そういった考えが受け継がれて、留学・研修を推奨する良い雰囲気・環境が事務所内で出来上がっているのかなと感じています。
最後に、これから弁護士を目指す方へメッセージをお願いします。
弁護士としてのキャリアをスタートさせる環境としての長島・大野・常松法律事務所は、決して楽な環境ではないと思います。入所したばかりの頃は、先輩弁護士から、起案した書類に原形をとどめないほどの修正を加えられることも少なくありませんし、案件の節目を迎えたときなどは夜遅くや休日まで働かなければならないこともあります。しかし、本当に尊敬できる先輩、同期、後輩、スタッフとともに真摯に案件に向き合い、社会的にも意義のある大きな仕事を成し遂げたときは、他の環境では決して得ることができない経験と充実感を得ることができます。そういった環境の中で一緒に成長していきたいという熱い気持ちをもった方々には、是非、長島・大野・常松法律事務所に興味を持っていただければと思います。
プロフィール
辺 誠祐
2011年12月入所。1984年生まれ、大阪府出身。2016年7月からアメリカでの2年間の留学・研修を経て、2018年9月に事務所に復帰。コンプライアンス・危機管理・企業不祥事対応、人事・労働法務、民事・商事争訟等を中心に企業法務一般に広く携わる。2013年5月に公認不正検査士(CFE)資格を取得。
プロフィール詳細学歴/職歴
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2008
神戸大学法学部卒業
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2010
京都大学法科大学院修了
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2011
長島・大野・常松法律事務所入所
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2017
Duke University School of Law卒業(LL.M.)
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2017~2018
Dechert LLP(New York)勤務
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2021 ~
長島・大野・常松法律事務所パートナー