弁護士インタビュー

政府の一員として国家的危機に立ち向かった経験を糧に、弁護士の新たな道を切り拓く

鳥巣 正憲

パートナー/64期
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Q1

入所から留学・研修までの間は、どのような案件に取り組まれたのでしょうか。若手としての働き方を含めて教えてください。

実は、入所する時点では、企業法務にどのような分野があり、それぞれがどのような仕事なのかについて、ほとんどイメージを持てていませんでした。そのため、「入所してからの数年間は、選り好みをせずに目の前の案件に全力で取り組み、その中で得られる知識や経験を蓄積して一日でも早く一人前の企業法務弁護士になる」という目標を立て、日々がむしゃらに仕事をしていました。

当初配属された育成グループでは、ファイナンス分野の案件を扱うパートナーが多かったので、ストラクチャード・ファイナンスやバンキング・ファイナンスといった金融取引から、金融商品取引法をはじめとする金融レギュレーションまで、数多くの案件を経験しました。また、ファイナンス分野にとどまらず、大規模な国際仲裁や税務訴訟など、ときには育成グループをまたいで、数多くのパートナーやアソシエイトと仕事をしていました。一緒に仕事をした弁護士の数でいえば、所内でもかなり上位に入るのではないでしょうか。

大規模事務所では取扱分野が細分化されているため、特定の分野についての専門的な知識や能力を早めに身につけるべき、という考え方もあると思います。しかし、私は、若手のうちに幅広い分野の案件を経験し、多角的な知識と視野を身につけることが、将来、依頼者の真のニーズや課題を見抜き、クリエイティブな解決策を提示することのできる弁護士になる上で、欠かせないはずだと考えていました。一見すると遠回りに見えますが、当時積み重ねたものが、現在の業務に活きていることを日々実感しています。このように、若手のうちに多様な経験を積むことができるのは、長島・大野・常松法律事務所の大きな強みだと思います。

Q2

ライフサイエンス・薬事・ヘルスケア分野を中心に仕事をされているとのことですが、どのようにして興味のある分野を見つけていかれたのでしょうか。

ライフサイエンス・薬事・ヘルスケアという分野に出会ったのは、弁護士1年目の後半のことでした。当時の同室パートナーから、「一緒にこの分野を盛り上げていこう」と声をかけてもらったのがきっかけです。そのパートナーは、日本ではまだ弁護士業務の一つとしてあまり認識されていなかったこの分野を先頭に立って切り拓いているパイオニアでした。「ぜひ一緒にやらせてください!」と威勢よく返事をしたものの、実は、その時点ではこれを将来の業務分野の中心にしようとまで明確には考えていませんでした。「身内や友人にも医療や薬事に携わっている人が結構いるし、新しい分野で面白そうだからやってみよう」というのが率直な気持ちでした。

その後、留学までの間に携わった同分野の案件は多岐にわたります。国内外の製薬メーカーの事業提携やM&A、海外医療機器メーカーの日本市場進出支援、国内機械メーカーのヘルスケア部門創設、医療機関同士のM&Aといった取引案件から、製薬メーカーの内部調査や各種規制当局対応などのコンプライアンス業務にいたるまで、数え切れないほどの案件を担当しました。

他の業務分野に比べると、当時は文献や情報の数も圧倒的に少なく、立法当時の資料や関連通知を隅から隅まで読み込んだり、当局や関係団体へ何度も電話で照会し、長時間ディスカッションをしたりして、依頼者が抱える悩みの一つ一つに対応していきました。また、所内に薬事・ヘルスケアのグループを立ち上げ、各弁護士が案件で得た知見を蓄積し、次の案件に活かす体制を作るなど、皆で一歩ずつプラクティスを構築していきました。数年経つと、他グループのパートナーやアソシエイトからも助言を求められるようになるなど、自分自身も手応えを感じるようになりました。

この分野を将来の自分の業務分野の中心にしようと明確に意識するようになったのは、弁護士として丸4年働いた留学直前のタイミングです。留学先への出願書類の一つに、パーソナル・ステートメントがあります。留学で何を学び、経験したいのか、出願先にアピールしなければなりません。アメリカのライフサイエンス・薬事・ヘルスケア産業は日本とは比較にならないほど巨大で、それに関するリーガルサービスも一大業務分野を構成しています。ステートメントを書き進めるにつれ、「これを本場で学ばない手はない。そして自分の将来の業務分野の中心にするのだ。」という気持ちが固まっていきました。

Q3

アメリカでの2年間の留学・研修では、どのようなことを学び、経験されたのでしょうか。現地での生活の様子とあわせて教えてください。

2016年7月にスイスのジュネーブで開かれたサマースクールに1ヶ月間参加した後、翌8月からアメリカ東海岸のノースカロライナ州にあるデューク大学のロースクールへ留学しました。同大学のあるダーラムは、緑あふれるのどかな田舎町です。妻と幼い子供2人を連れての初めての海外生活でしたが、南部の土地柄なのか、町の人々も温かく、楽しい日々となりました。大学時代の全てをいわゆる体育会のアメフト部に捧げた身としては、本場のフットボールを生で観られることは最高に幸せでした。また、同大学のバスケットボールチームは、現在NBAで活躍するスター選手が多数在籍する強豪で、ロースクールの友人達と一緒にスタジアムでほぼ全試合を観戦しました。さらに、安くて素晴らしいゴルフコースがそこかしこにあり、所内の同僚達から「あいつはゴルフ留学に行った」と揶揄されるほど存分に楽しみました。

このように、留学期間中は、ロースクールの外での生活も満喫しましたが、もともと留学に当たっては2つの目標を立てていました。一つは、アメリカのライフサイエンス・薬事・ヘルスケア分野における法律実務を本格的に学ぶこと、もう一つは、ロースクールでの授業や世界中から集まる仲間達との交流を通じて英語を不自由なく使えるようになることでした。

デューク大学のLL.M.プログラムでは、いくつかの必修科目を除き、自分の興味に合わせて履修科目を決めることができます。また、デューク大学は、全米屈指のメディカルスクール・大学病院を擁し、ロースクールを含む他の大学院でもライフサイエンス・薬事・ヘルスケア分野に関する研究が盛んです。私は、「Health Care Law & Policy」という科目で、ヘルスケア産業における患者、医療提供者、資金提供者の三極の視点から様々な法律問題を分析したり、「Life Science Innovation」という科目で、FDA規制や知財、M&Aといった様々な観点からアメリカのライフサイエンス産業におけるイノベーションの源泉を探ったり、「Access To Medicine」という科目で、途上国が抱える医療・公衆衛生上の問題を国際的な視点からいかに解決するかを議論したりなど、大変充実した学びを得ることができました。

英語に関しては、留学前はお世辞にも上手いとは言えない状況でした。しかし、ライフサイエンス・薬事・ヘルスケア分野に携わる上で、国際的な案件を抜きに語ることは難しく、これを機に英語を身につけなければと腹を括りました。最初は教授や友人達が話す内容について行けないこともあり、何度も悔しい思いをしましたが、授業だけでなくホームパーティーなどにもほぼ全て参加し、必死に英語を使いました。実際に聞いて話せるようになると、純粋に嬉しく、何よりその過程で得られた世界中の友人達との絆や思い出は、一生の宝物です。

2017年5月にデューク大学を修了した後、ニューヨーク州司法試験を受験し、同年9月からワシントンD.C.所在のSteptoe & Johnson LLPという法律事務所でInternational Associateとして勤務しました。連邦政府のお膝元にある法律事務所らしく、FDAやEPAが絡む薬事・食品規制に関する案件にとどまらず、FCPAや国際開発金融機関などのAnti-Corruption規制、Economic Sanction規制、当時注目を集め始めたCFIUS規制など、アメリカならではの案件に多数携わることができました。また、当時のD.C.は、トランプ政権誕生の直後ということもあって、独特の雰囲気があり、それを肌で感じることができたのも貴重な経験となりました。

Q4

留学・研修から戻られた後、厚生労働省で約2年間勤務されました。勤務されることになったきっかけを教えてください。また、同省では、どのような仕事に携わられたのでしょうか。

留学・研修から戻ってしばらくした頃、あるパートナーから「厚生労働省が、省全体を法務面からサポートできる人を探しているらしい。興味があれば応募してみては?」と教えてもらいました。ライフサイエンス・薬事・ヘルスケアの分野に本格的に取り組むと決めてから、いつかはぜひ厚生労働省で働いてみたいと考えていましたので、これはチャンスだと思って応募したところ、幸いにも選考を通過することができました。

厚生労働省で私が所属していたのは、大臣官房総務課法務室という部署で、いわば省全体の法務部のような立場です。私が中心的に取り扱っている分野を所管する医政局、医薬局、健康局等からだけでなく、文字どおり、同省の全ての部局から様々な相談を受け、新制度の構築や法改正、行政処分や行政調査、契約・調達実務、訴訟や行政不服審査対応など、極めて多岐にわたる事項について、対応してきました。

法務室は、弁護士・検事・裁判官の法曹三者から構成されていました。全ての相談や案件について、法曹三者それぞれの視点から徹底的に議論をしたうえで、チームとして対応するため、各部局の皆さんに正確なアドバイスを提供し、必要に応じて多様な選択肢を提示することができます。加えて、他のメンバーの意見を聞くことで、自分自身も様々な学びを得て成長することができたのは、大変ありがたかったです。

他省庁と比べると、過去に厚生労働省が受け入れた弁護士その他の法曹の数は少なく、職員の皆さんも、法務室に相談することについて、最初は敷居が高いと感じられていたようでした。しかし、最終的には、困ったときの駆け込み寺のような形で若手から幹部まで多くの方々にご相談いただけるようになり、在職した約2年間で、大小あわせて1,300件を超える案件に携わりました。厚生労働省は、人が生まれる前から亡くなった後まで、一生のあらゆるフェーズに関する施策を幅広く所管する省です。その多種多様な施策に、様々な法的切り口から携わることができた経験は、私の弁護士としての総合力と専門性のレベルを押し上げてくれたと確信しています。

Q5

厚生労働省で勤務されている最中に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生しました。同感染症の対策にも携わられたのでしょうか。

はい、新型コロナウイルス感染症対策に関する施策にも、厚生労働省内だけでなく、日本政府内の様々な部局と連携しながら、幅広く携わりました。

厚生労働省は、国の公衆衛生当局として、同感染症対策において最も中心的な役割を果たします。また、労働や福祉に関する施策も所管しており、それらの分野から日本の皆さんの生活を支える責務も負っています。同感染症が発生して以降、厚生労働省の職員の皆さんは、一日でも早く日本の皆さんが元通りの生活をおくれるよう、凄まじい使命感の下、奮闘されています。また、同感染症対策は、厚生労働省だけで完結するものではなく、他省庁や自治体、立法府たる国会のほか、海外の国や地域、国際機関、国内外の民間企業・団体などとも緊密な連携が必要で、終息に向けては今後もあらゆるステークホルダーが一丸となって邁進しなければなりません。

同感染症はまさに未曾有の危機であったため、その対策を講じるにあたっては、あらゆる場面で新しい問題や課題が生じました。私も、厚生労働省をはじめとする日本政府の皆さんと一緒に、巨大なチームの一員として、主に法的な側面から、ときには後方でチームをサポートし、ときには自らが最前線に立って、これらの問題や課題に取り組みました。海外の国や地域、国際機関、国内外の民間企業・団体との連携が必要な場面においても、事務所でクロスボーダー案件を含む多様な企業法務案件を担当して得た知識・経験や、アメリカ留学・研修で得た知識・経験を活かして、政府の皆さんとは異なる視点から、様々なアイデアを提案するよう努めました。自らが携わった様々な施策が新聞の一面やテレビのトップニュースとして連日報道され、ときに厳しく批判されるというのも、普段の弁護士業務ではなかなか経験できないことです。国家的危機における様々な施策を実行していく中で、チームの一員として信頼してくださった厚生労働省をはじめとする日本政府の皆さんに対しては、感謝の念しかなく、私自身も「日本の皆さんに一日でも早く普段の生活を届けるんだ」という強い使命感を持って必死に取り組みました。

Q6

アメリカでの留学・研修、厚生労働省での勤務といった経験を活かし、今後どのような案件に取り組んでいかれるのでしょうか。将来への意気込みとあわせて教えてください。

奇しくも新型コロナウイルス感染症のパンデミックという未曾有の危機によって、私が注力しているライフサイエンス・薬事・ヘルスケアという分野が、改めて大きな注目を浴びることとなりました。テクノロジーの進化により、製品・サービスを提供する側において様々な可能性が広がるのと同時に、パンデミック後の生活様式の変化などを契機に、ユーザー側のニーズも大きく変わっていくことが容易に想像できます。また、グローバル化が進んだ現代において前例にないスピードで拡大しうる公衆衛生上の危機にどう対応すべきか、日本だけでなく世界が一体となって解決すべき課題として再認識されました。どの産業分野もそうですが、特にライフサイエンス・薬事・ヘルスケア分野においては、国境をも超えた産官学民の連携が不可欠であると感じます。革新的なイノベーションを生み出す場面、安心できる医療・ヘルスケアサービスを安定的に提供する場面、公衆衛生上の危機を迅速に収束させる場面など、いずれにおいてもそのスムーズかつ強固な連携がなければ、この分野で達成すべき終局的な目的や価値を実現することはできません。

私自身は、留学前には主に日本のマーケットについて「産」をサポートする立場から知識や経験を深め、留学・研修ではアメリカをはじめとする海外マーケットについて同じく知識や経験を深めることができました。そして、厚生労働省における勤務では、「官」として各ステークホルダーを規制する立場としてだけでなく、この分野の持つ力を結集し共に課題を解決していく立場としても、知識や経験を深めることができました。

今後は、これまでに得た知識や経験を活かし、ライフサイエンス・薬事・ヘルスケアという分野を軸に、国内外の大企業からスタートアップ企業、大学・研究機関等にいたるまで、多くの方々に、より一層充実し、ときに革新的なリーガルサービスを提供していきたいと考えています。企業側での各種取引へのアドバイスや規制対応等のサポートにとどまらず、ステークホルダー間の架け橋となって様々な課題を解決に導くことのできる存在となることを目指しています。また、私の知識や経験が他分野でも役に立つ場面は数多くあると思いますので、自らの中心的な取扱分野にとどまらず、めぐり会う一つ一つの案件に、事務所のメンバーと共に全力で取り組んでいきたいと考えています。

さらに、弁護士として、まさに「日本の全ての方々が依頼者である」ともいうべき状況で働いた経験は、何物にも代えがたいものです。特に、厚生労働省・日本政府の一員として未曾有の国家的危機に立ち向かう中で経験したことや感じた思いを今後の弁護士人生を通じて社会に還元していくことは、自らに課された使命であるとも感じます。従来の企業法務弁護士としての枠に囚われず、自分に何ができるのかを日々模索し、積極的にチャレンジしていきたいと考えています。

Q7

最後に、これから弁護士を目指す方へメッセージをお願いします。

弁護士を目指す皆さんの中には、「企業法務ってどんな仕事なんだろう?」、「大きな事務所で埋もれてしまわないだろうか?」などと不安に思われる方も多いかもしれません。しかし、弁護士になりたての時には、自分が何をやりたいのかについてはっきりと分かっている必要はありませんし、不安な気持ちはそのままに、エイヤッと飛び込んでみてもいいと思います。

若手のうちから様々な案件に真摯に取り組み、アンテナを張り続けていれば、自分の能力を磨くことができるとともに、「おもしろい!」と思える分野に出会うチャンスが必ず来ます。そんなチャンスが色々なところに転がっていたり隠れていたりするのが、長島・大野・常松法律事務所の良いところです。もちろん、チャンスを掴み取るためには受け身の姿勢では駄目ですし、それに出会うタイミングは人それぞれですが、長島・大野・常松法律事務所は、「これだ!」と思うものにチャレンジし新しい道を切り拓こうとする弁護士を全力でサポートしてくれます。

チャレンジをいとわず、お互いに切磋琢磨しながら、従来の枠に囚われない新しい道を切り拓く、そんな熱い気持ちを持った仲間をお待ちしています!

プロフィール

鳥巣 正憲

64期 パートナー

2011年12月入所。1984年生まれ、福岡県出身。2年間のアメリカ留学・研修を経た後、2019年7月から2021年8月まで厚生労働省大臣官房に勤務し、コロナ禍における日本政府の様々な施策に関与。ライフサイエンス・薬事・ヘルスケア分野を中心に、国内外を問わず、M&Aその他の各種取引や規制・官公庁対応をはじめとする幅広い案件においてサービスを提供している。

プロフィール詳細

学歴/職歴

  • 2007

    東京大学法学部卒業

  • 2010

    早稲田大学大学院法務研究科修了

  • 2011

    長島・大野・常松法律事務所入所

  • 2017

    Duke University School of Law卒業(LL.M.)

  • 2017~2018

    Steptoe & Johnson LLP(Washington, D.C.)勤務

  • 2019~2021

    厚生労働省勤務

  • 2024~

    長島・大野・常松法律事務所パートナー